salamipizzablog

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大丈夫、世界はまだまだ面白くなる

枯れかけくらいがちょうどいい

彼は開口一番そう歌う。

HAIIRO DE ROSSIというラッパーが枯れかけという趣旨ではないが、本作は「枯れかけ」こそ持ち得る"成熟を超えた先にある景色"がうまく表現された一枚だ。

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はじめに

僕の敬愛するラッパー、HAIIRO DE ROSSI(以下、ハイイロ)の新譜が出た。

CD(通常盤とインスト盤の2枚組)のお買い求めはこちら。

forteonlineshop.com

サブスクにも両方アップされているのでチェックしてみてください。

linkco.re

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通算7枚目のアルバムにして、ついにセルフタイトルを打ち出した。

自身のレーベル名を冠した名盤『FORTE』以上の存在感を放っている。

そんな記念すべきアルバムということで、今回は珍しく、稚拙ながら一曲ずつ感想を綴りたいと思う。

1. Mood feat. CHIYORI (produced by 湯煙bee)

開幕一発目からCHIYORIの心地いい歌声が浸透する。

そしてなにより、この曲の立役者は湯煙beeでしょう。

このビートなくしてこんなムーディーな曲は仕上がらない。

「かっこいいラッパー」ってのは「ビートを生かすラッパー」であると再認識した。

とても素敵な滑り出しだと思います。

linktr.ee

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2. Flower (produced by DJ Mitsu the Beats)

ハイイロさんも父親となり、こんな曲が書けるようになった(何様)

同い年の子どもを持つ親として、この歌詞はグッとくる。

フロウに寄り添うかのように優しいDJ Mitsu the Beats先生にも盛大な拍手を。

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3. My Fan feat. crime6 (produced by MAHBIE)

ZZに憧れ作ったクルーは解散した今も根っこのブルース

ですよ、本当にね、この二人の共演には否応にも胸が熱くなりますよ。

そして、ここまで直接的にリスナーに向けた曲ってあんまり聞いたことがない。

いつの時代もリスナーが作る俺たちはこの船の上のクルー

リスナー、ひいては音楽に対する変わらず謙虚な姿勢にも好感が持てる。

MAHBIEのタイトでキャッチーなビートがすごくハマってる。

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4. Think Twice (produced by Pigeondust)

ハイイロさんといえばPigeondust、避けては通れない道。

それほど目立つ曲ではないけど、より具体的な歌詞で記憶に残る。

昨今の誹謗中傷も相まって、インターネットとの距離感を考えさせられる一曲。

deejaypigeon.webnode.jp

5. Young Gould (produced by lee(asano+ryuhei) & KOR-1)

とてもダウナーなフロウ。

ポエトリーではないけど語りに近い。

こういう広がりのある曲で前半を締めくくるのも悪くない。

ビートはlee(asano+ryuhei) & KOR-1の九州コンビ、間違いないですね。

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6. Coffee Time (produced by 1Co.INR)

人々は無駄を嫌い、間奏を飛ばし続ける。

世はまさに大サブスク時代!(ドン!)

昨今のアルバムはインタールードはおろかイントロやアウトロすら存在しないこともざらだ。

悲しいね、あの時間空間にこそ感じ入る情緒があったのに。

本作も例に漏れずイントロとアウトロはないが、幸いインタールードは残った。

1Co.INR(ワンコイナリ)めっちゃいい……。

本作のビートメイカーでは、次曲も含めてベストワークだと思う。

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7. 二人の秘密 feat. 泉まくら (produced by 1Co.INR)

なんだこのタイトルは!お父さん許さんぞ!

……いい曲じゃないか。

ハイイロというラッパーは女流アーティストの生かし方も心得ている。

愛ならば知っている。

www.youtube.com

愛とは何ぞや、ただの言葉。

愛すなわちLove、LoveといえばOrgan、Organといえばハイイロ、当然の引用である。

ちなみに、僕がOrganと泉まくらについて綴ったブログはこちら(隙あらば宣伝) 

salamipizzadog.hatenablog.com

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8. 春を目指して feat. 泉まくら (produced by Eccy)

ソロアルバムで他人に一人語りさせるという離れ業。

泉まくら二連投ってのもいいですね。

降神の『Music is my diary』を思い出した、老害なので。

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9. Life (produced by Pigeondust)

本作で一番好きな曲かもしれない。

この『Life』から次曲の『ARTIST』の流れがやばいんですよ。

ハイイロさんは歌詞の人なので、そういう意味でこの曲はダントツですね。

結局、選ばれたのはPigeondustでした。

10. ARTIST feat. 曽我部瑚夏 (produced by Eccy)

失礼千万で申し上げると、これはもはや曽我部瑚夏の曲である。

切なくて儚いメロディーがずっと頭を巡る、つい口ずさんでしまう。

Eccy御大の荘厳でドラマチックなビートも素晴らしいです。

この曲で初めて曽我部瑚夏を知りましたが、サブスクにある曲もよかったです。

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konatsusogabedoman.wixsite.com

11. forte pt.2 (produced by Eccy)

昨年、突如シングルリリースされた『forte pt.2』も収録。

Eccy御大からこのまるで約束されたかのようなビートが届いたとき、ハイイロさんがめちゃくちゃ高揚していたのを今でも覚えている。

そこからすぐに歌詞を書き上げレコーディング、あっという間に完成した。

正直、この曲はアルバムの中で若干浮いているが、それでも入れて正解だと思う。

セルフタイトルの最後を飾るのはこの曲しかありえないだろう。

forteonlineshop.com

ミックスとマスタリングとデザイン

僕の友人であるM'Bomaがいくつかミックスを担当している。

マジキチクルーとかいう一般廃棄物みたいな生ゴミ集団の成り立ちを知る人であれば、なかなかの感動ものである。出世したな。

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そしてマスタリング、今回はDJ MOTORA氏が手掛けている。

マスタリング前と後のデータを聞き比べたが、素人でもわかるほど温度感や厚みが増しており、音がすごく立体的に感じられた。

「エンジニアってすげー」というバカみたいな感想。

www.teamkenrecords.com

また、ジャケットをはじめ、歌詞カードや非売品ポスターなど、本作の諸々をデザインしたのはMUTCHYことムッチー氏。

これまた僕の友人でいい奴だからフォローしてやってくれ(雑)

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あとがき

このアルバムを初めて拝聴したとき、僕はハイイロさんに「ずっと独りだった男がやっと一人になった気がする」と感想を送った。

そのままCDの帯にしてもいいくらい秀逸なキャッチコピーだ。

これは私見だが、『FORTE』以降、ハイイロさんの音楽には常に死相が見えていた。

自身がどれだけ満身創痍になろうとも、それでもリスナーに寄り添い続けてきた。

自ら「死」に近づくリスナーを救おうと手を伸ばしていたが、その当事者であるハイイロさんもまた「死」に限りなく近い位置に立っていた。

季節で例えるなら、これまでリリースしてきた作品はどれも冬だった。

しかし、前作『Rappelle-toi』でその死相が少し薄まった。

まるでずっと続いていた長く暗いトンネルを抜ける直前のような景色。

そして本作、ついにそのトンネルを完全に抜け切った、そんな印象を受けた。

子どもという「生」そのものの訪れにより、空を覆う雲が晴れ日差しが強まったことにより、ハイイロさんを取り巻く「死」という暗く大きな影が消えた。

永い永い冬が終わり、見事な雪解けを見せた。

HAIIRO DE ROSSIはもう"独り"ではない。

確固たる"一人"としてまた歩き出した、そう、春を目指して(完璧な締め)