僕には敬愛するラッパーが二人いる。
その一人がHAIIRO DE ROSSI、もう一人はまたの機会に綴ろうと思う。
今回はHAIIRO DE ROSSIの6枚目のアルバム『Rappelle-toi』の感想を書き記したい。
はじめに
公私ともにお世話になっているため本来は敬称を付すべきところ、今回は一人のリスナーとしてものを言いたく、あえて他人行儀な書きぶりとする。
全体の感想
まず、HAIIRO DE ROSSIが自身のブログで全曲解説を掲載しているので、そちらにも目を通していただきたい。
さて、いかにも懐古主義な物言いだが、昔のシーンにはアルバム一枚で一つの作品のようなものが多かった。
そして、そういった盤が俗にクラシックと呼ばれているような気がする。
最近はキラーチューンが数曲あればOK、といった作りに傾倒していて少し寂しい。
一方でそれは、サブスクリプションの時代の訪れを感じさせるものでもある。
そんな中で今回のHAIIRO DE ROSSIのアルバムだが、これは完全に一枚で一つの作品だ。
シャッフル再生なんてしようものなら気持ち悪くてしょうがない。
確固たる一つのテーマについて延々と歌われているわけではないが、不思議とまとまりが強い。
そして、ラップを活かすビート、ビートを活かすラップ、その絶妙なバランスの上で成り立っている。
昔以上にアーティストが会社の商品となり、曲はリスナーにとって消耗品となった今の時代だからこそ輝くインディーズ、このアルバムからはそんな泥臭さや土埃のようなリアルを感じる。
HAIIRO DE ROSSIというラッパーが今、何と向き合い、思い、歌っているのか、まるで彼の目から見える等身大の景色を映し出すかのような一枚。
あと、HAIIRO DE ROSSIの実弟が手がけたという、映画「トレインスポッティング」のワンシーンをサンプリングしたジャケットも味わい深い。
そして、CDの盤面がOrganのEP『Orange and Blue Invitation』のタイトルを彷彿とさせる配色になっているのもポイント。
ラップ
とても優しく、そして強か。
それでいて、手を差し伸べたくなるような「弱さ」も垣間見える(さらけ出している)。
今回のアルバムで改めて思ったが、HAIIRO DE ROSSIは自身の客観視にとても長けた人間だ。
「リリシスト」という言葉は好きではないけれど、聴き手にそう言わせてしまう力がある。
それはリリックだけではなく、フロウにも起因する。
これは頭の悪い表現だが、HAIIRO DE ROSSIはめちゃくちゃラップが上手い。
しかし残念なことに、HAIIRO DE ROSSIのラップの上手さは伝わりづらいところがある。
よくよく注意深く聴いてみると、拍や間の取り方なんて職人技だし、緩急のテクニックにも意表を突かれるし、「上手いな~」と唸らせるものが随所にある。
昔のフロウはすごくわかりやすかった、わかりやすい上手さだった。
アーティストの経年変化を楽しむことも音楽の醍醐味であるわけで、そういった観点でもとくと味わってほしい。
ビート
Pigeondustはいいぞ。
HAIIRO DE ROSSIとPigeondustの相性は今さら言及する必要なし。
しかし、今回のアルバムはビートが本当に生き生きしている。
Instrumental盤なんてリリースされた日には迷わず購入してしまいそうだ。
最近のアルバムではHimukiをはじめ、様々なビートメーカーと共演してきた。
それでも僕は内心、どこか物足りない気持ちを拭いきれずにいたが、それが今回すっきり解消された。
やっぱりHAIIRO DE ROSSIにはPigeondustだよね。
ご飯に味噌汁、タバコにコーヒー、ハイイロにピジョン、そんな調子。
お気に入りの楽曲
ダントツで"TAXI."、これは本当に最高。
仕事帰り聴くにはもってこいだ。
あと耳を引くのは"爆裂都市"、ビートはDJ MOTORAが手がけている。
これどうやってリリック書いたの?どうやってラップしてるの?って感じ、聴くたびにフレッシュ。
特典
公私混同しないようなことを言っておいて、やっぱりしちゃうのが僕という人間。
今回の特典は、僕の同志、M'Bomaによるリミックス音源となっており、さらにforte Online Shop初回特典には図々しくも僕まで参加している始末。
僕のラップはさておき、M'Bomaのリミックスはどれもなかなか面白い。
彼はトラップ調のビートが大好物なので今回もそういうテイストに仕上がっているが、彼も腕を上げたのか、まさに"Same Same But Different"といった具合にみんな違ってみんないい。
店舗によって収録内容が異なるので、行きつけのショップや気になるタイトルで選ぶのもいいだろう。
まとめ
Rappelle-toi、フランス語で「思い出せ」という意味。
ヒップホップは「今」を切り取る音楽であり、そのアウトプットに正解も不正解もない。
過去があって今があり、今があって未来がある、そんなせわしない日々の中で忘れがちな当たり前のことを「思い出せ」と言われた気がした。
このアルバムを聴いて、皆それぞれ思い出すことがあって、それに正解も不正解もない。
各々が自身の歩んできた道と照らし合わせながら、そしてこれから歩む道を照らしてくれる、そんな自由な解釈の余地を残す奥行きあるアルバムだ。
あと、7inchでアナログカットするような話もしていて、今回の楽曲はアナログでこそ聴いてみたいと思っていたのですごく楽しみ。
余談
一応、僕が参加した"AKG(MB loves MKC Mix) feat.5akkyy from.Majikichi Crew"についても触れておく。
何も知らない人はこの字面だけで混乱するだろうが、あえて説明はしない、ググれ!
僕はMajikichi Crew(略してMKC)について歌っている、もっと言えば仲間に向けて歌っている。
そういう意味では他人が聴いてもつまらないかもしれないが、昔懐かしい自分の仲間や友人との日々を思い出し、重ねながら聴いてもらえると嬉しい。
といいつつも、この楽曲が収録されているforte Online Shop初回特典はめでたくソールドアウトとなったため、すでに持っている人しか聴くことのできないレア音源(言ってみたかった)となってしまった。
高校生の頃、HAIIRO DE ROSSIのデビューシングルを聴いて相当やられた、あの日あの瞬間のことを今でも鮮明に覚えている。
(特典という形であれ)HAIIRO DE ROSSIと共演が果たせるとは、当時の僕は夢にすら思わなかった。
ハイイロさん、本当にありがとうございます。